こたろぐ

石橋鼓太郎のブログです。アートマネジメント/音楽研究(見習い)。

他者に対するスタンス

きょうは月に1回開催されている音楽人類学研究会でこちらの本を読んだ。

www.ongakunotomo.co.jp

近年、発達心理学を中心に、人間のコミュニケーションの基盤に音楽性を据えようとする「コミュニケイティブ・ミュージカリティcommunicative musicality」という概念が流行っているらしく、これに関する学際的な研究を日本でもやってみよう、というコンセプトで組まれたアンソロジーらしい。

興味深かったのが、人間を対象とした部分よりも、霊長類や鳥類を対象とした部分のほうが人類学的に読めた、という話になったことだ。私も第一印象として、乳幼児と母親、あるいは音楽教育の場面の相互行為を分析している部分よりも、人間ではない動物を中心に生物学に近い話をしている部分の方が面白かった。たぶん、前者はなんとか音楽を「いいもの」として描きたくて、人々の相互行為を無理やり手持ちの音楽概念に当てはめて説明しようとしてしまっている一方で、後者はよくわからない他者を対象に研究する構えが既にできていて、我々の手持ちの概念を生物に当てはめることに対して慎重なので、かえって音楽を遠いところから捉え直しているような感じがするからなのだろう。

自分が既に持っている概念や思考を補強するエビデンスをとる目的で研究するのか、よくわからない他者と向き合うことで自分が既に持っている概念や思考を捉え直す目的で研究するのか、という研究上のスタンスの違いは、かなり大きい。わたしは常に後者でありたいと思っているのだが、特に実践に近い研究分野では、前者のスタンスの人のほうが圧倒的に多く、なかなか話が分かってもらえない。もどかしいが、こればっかりは、その分野の中で地道に問い続けていくしかないのだろう。